名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)38号 判決 1970年3月13日
名古屋市中区橘町二丁目六番地
原告
合資会社播磨屋井上藤次郎商店
右代表者代表役員
井上芳雄
右訴訟代理人弁護士
石原金三
同
下村登
同
野尻力
右訴訟復代理人弁護士
小栗厚紀
名古屋市中区三の丸三丁目三番
被告
名古屋中税務署長 土井実
右指定代理人
松沢智
同
老籾貞雄
同
天池武文
同
和田真
同
竹内雄也
右当事者間の昭和四二年行ウ第三八号法人税更正決定取消請求事件について、当裁判決は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立て
一、原告
被告が昭和四一年四月二七日付で原告に対してなした
(一) 昭和三七年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人所得金額一一、五九八、九六四円とする更正処分のうち金一〇、八〇六、九六四円を超過する部分
(二) 昭和三八年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人所得金額一二、四五三、九二一円とする更正処分のうち金一一、四三八、九二一円を超過する部分
(三) 昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人所得金額一五、〇二二、六〇七とする更正処分のうち金一四、〇八八、六〇七円を経過する部分
はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨
第二、請求の原因
一、原告は肩書地に本店を有し、仏具商を営む合資会社であるが、昭和三七年ないし昭和三九年度の法人税につき、次のとおり確定申告をした。
昭和三七年一月一日より同年一二月三一日まで(以下昭和三七年度という)所得額 金一、二四七、五四七円
昭和三八年一月一日より同年一二月三一日まで(以下昭和三八年度という)所得額 金一、四四九、三三三円
昭和三九年一月一日より同年一二月三一日まで(以下昭和三九年度という)所得額 金一、九七八、〇三四円
二、右確定申告に対し、被告は昭和四一年四月二七日付で次のとおり更正処分をなした。
昭和三七年度所得額 金一一、五九八、九六四円
昭和三八年度所得額 金一二、四五三、九二一円
昭和三九年度所得額 金一五、〇二二、六〇七円
三、右更正処分においては、原告の代表社員井上芳雄の報酬が過少に認定されたので、原告は被告に対し異議申立てをしたところ、被告はこれを棄却した。よつて原告はさらに名古屋国税局長に対し審査請求したが、昭和四二年六月二七日付で棄却の裁決があり、その旨通知があつた。
四、原告の代表社員井上芳雄の報酬は、
昭和三七年度 月額 金一六〇、〇〇〇円
昭和三八年度 月額 金一八〇、〇〇〇円
昭和三九年度 月額 金二〇〇、〇〇〇円
であるが、これに基づいて計算すると原告の右事業年度の法人所得は次のとおりとなる。
昭和三七年度 金一〇、八〇六、九六四円
昭和三八年度 金一一、四三八、九二一円
昭和三九年度 金一四、〇八八、六〇七円
よつて右更正処分のうち、右金額を超過する部分は違法であるから、その取消を求める。
五、原告は本訴において、必要経費として所得から控除せらるべき代表社員井上芳雄の報酬額が、原告主張のとおりであることを唯一の争点として主張するものである。従つて、若し井上芳雄の報酬額が被告主張のとおりであるとすれば、原告の所得額が本件更正処分のとおりとなることは、これを認める。
第三、被告の答弁および主張
一、請求原因第一ないし第三項の事実は認める。第四項の事実は争う。
二、原告は公表帳簿に、代表社員井上芳雄、他の役員井上幸三郎、同高木政男に対する報酬として別表記載の金員を記載していたが、昭和四〇年四月一九日名古屋国税局査察課が行つた調査により、右井上幸三郎、高木政男に対しては、簿外報酬として別表記載の金員が支払われていることが判明した。よつて被告は、代表社員井上芳雄に対しても簿外報酬が支払われているではないかとの観点に立つて調査したが、その事実は判明しなかつた。よつて本来ならば右公表帳簿に記載された井上芳雄の報酬を必要経費として控除すれば足りたのであるが、被告は他の役員に対し簿外報酬が支払われているのだから、代表社員に対しても相当額の簿外報酬が支払われているものとして取扱うのが相当であると考え、類似法人の代表者に対する報酬額を参酌したうえ、井上幸三郎に対する報酬の一五〇%を以て井上芳雄の報酬と認めることにした。その結果算出されたものが、別表の井上芳雄の報酬である。
被告は右算出した井上芳雄の報酬を必要経費として所得額より控除して、本件更正処分をなしたものである。
三、若し原告が、井上芳雄に対し、その主張の如き報酬を支払つたとすれば、そのうち被告認定の報酬額を超える部分は、過大な役員報酬として、法人税法施行規則第一〇条の三第一項により否認さるべきものである。
第四、被告の主張に対する原告の答弁
原告が代表社員井上芳雄、他の役員井上幸三郎、同高木政男に対し、別表記載のとおり公表報酬を支払つたこと、および右井上幸三郎、同高木政男に対し同表記載の簿外報酬を支払つたことはいずれも認める。
第五、証拠
原告は甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし一四、第五号証の一ないし一二、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一、二、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし三を提出し、原告代表者井上芳雄本人尋問の結果を授用し、乙第一号証の一ないし三の成立は認め、その余の乙各号証の成立は不知。
被告は乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし一一、第四号証の一ないし一三、第五号証の一ないし一五を提出し、証人浅野鉦一の証言を授用し、甲第一号証、第五号証の一ないし一二、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一、二、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二の成立は認め、その余の甲各号証の成立は不知。
理由
請求原因第一ないし第三項の事実および原告会社の代表社員井上芳雄、他の役員井上幸三郎、同高木政男に対する昭和三七年から昭和三九年までの間の公表帳簿に記載された報酬が、別表記載のとおりであること、右井上幸三郎、高木政男に対し右期間中に別表記載の簿外報酬が支払われたことは、いずれも当事者間に争いがない。
右事実と原告会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、原告は井上芳雄に対し、右期間中、公表帳簿に記載された報酬以外に、簿外報酬を支払つたことが認められるが、その公表報酬と簿外報酬とを合せた金額が原告主張のとおりであつたことについては、この点に関する原告会社代表者本人尋問の結果はたやすく措信し難く、甲各号証によるもこれを認めるに足らず、そして他に右事実を認めるに足る証拠はない。そして又一方、原告が井上芳雄に支払つた簿外報酬がいくらであつたかを確定するに足る資料も存在しない。そうすると、原告が井上芳雄に支払つた簿外報酬はこれを推計する外ないのであるが、その推計は、原告が他の役員井上幸三郎、同高木政男に支払つた簿外報酬の、同人らの公表報酬に対する割合を求め、これを井上芳雄の公表報酬に乗じて得た金額を以て、井上芳雄に対する簿外報酬の額と推計するを相当と考える。蓋し会社役員に対する簿外報酬は、各公表報酬に対しほぼ同一の割合で支給されているものと推定するを相当とするからである。そこで右算式に従い、別表記載の各金額について計算して見ると、被告が認定した井上芳雄に対する簿外報酬の金額は、いずれも前記算式による推計額よりも多額であることが認められる。
してみれば、被告が認定した井上芳雄の報酬額は、同人に対する公表報酬額と、前記推計の簿外報酬額との合計額よりも多いことは計算上明らかであるから、右認定報酬額を必要経費として所得額より控除してなした本件更正処分は、何ら原告の権利を侵害しているものでないといわなければならない。
よつて井上芳雄に対する報酬額の認定が不当であることを前提として(本件更正処分が右報酬額の認定以外の点では、正当であることは当事者間に争いがない)、本件更正処分の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判管 松本重美 裁判長 反町宏 裁判官 清水正美)
月額報酬支給表
別表
<省略>